私たち培養士は、医学ではなく発生学に基づく技術を提供する事が任務です。
その為、学校では動物学から発生について学び、卵や精子、胚にとってなにが大切であるのか?という事を中心に学びました。
医療に関する知識は乏しく、就職して現場で初めて学びます。
資格を持たなくても就ける職なので、発生学についてさえ学んでこなかった人もいます。
培養士さんってどうやってなるの?とよく聞かれますが、国家資格はありません。
医師、看護師、検査技師、医療工学士など、医療に携わる者は、国家資格を保持しているのにも関わらず、
胚培養士は国家資格でない事は少し奇妙に感じます。
このようなあまり整備されていない現場にも関わらず、日本は、世界的に見てもART先進国と言われています。
設備や技術がとても優れており、例えば、凍結融解という操作1つ考えても、
他国での生存率は約80%程度と言われていますが、日本では98%以上の生存率があります。
これは日本人が器用な人が多いというだけでなく、
各施設において凍結ディバイスの開発を行ったり、製薬会社と共同で試薬開発をしたり、
海外の論文を読み、試薬を取り寄せたりなど研究を積み重ねてきたからだと思います。
不妊治療専門の施設で働く培養士は、このような試行錯誤を業務と並行し積極的に行ってきました。
すべての方が同じような治療でうまくい行けばいいのですが、
どうしても受精しなかったり、胚盤胞にならなかったりする症例があるので、
そのような方々へのアプローチを考え試します。
年単位ではなく採卵から培養、凍結まで終わった時点で、
うまくいかなかった患者様へ向けて1~2か月後の採卵周期に向けて次はこうしましょう。という提案を話し合います。
このような研究や工夫は、「生殖医療は自由診療である」という枠に守られてたからこそ
スピーディーに多様な技術開発や積極的な取り組みが行えたのではないのでしょうか。
保険診療になるという事は、このような自由な取り組みがしづらくなります。
現場で、治療費の設定ができるという利点は、
積極的に研究しテーラーメイド医療を行い成果を出します。
という利点があります。
現在使用されているすべての培養液は、実験用であり、ヒトへの治療が認められていないもの。
もし、現行の保険適応のルールに乗る場合、新しい培養液が開発されても、認可がおりるまで数年かかります。待っている間にも卵子の老化は進んでしまいます。
混合診療を前提に賛成と訴える声には賛成しますが、臨機応変に対応できるのでしょうか?
また現時点では、保険と自費の混合診療は認められていないので、
保険適応にする為にはガイドラインに従って治療を行うことが前提となります。
このような現場で、いち培養士が新たな取り組みを始めたいと思っても、必要としてくれる患者様がいなければできません。
がんの抗がん剤治療同様、保険適応範囲内の治療と保険適応外の治療。
この審査を行うとなると、最先端の研究成果が届かなくなる事が懸念されます。
他科同様に大学病院や製薬会社で研究を行うには、設備や体制が整っていません。
前述したように私は、「不妊は病気ではない」と考えています。
「子どもを産んだから、フルタイムでは働けない。」という悩みに対し、保育園の整備や時短勤務という社会保障制度を整えると同様、
「これまで社会に貢献してきた。妊娠する事に対し何も情報がなかった」という悩みに、助成金の所得撤廃や支援拡大、学校教育、治療の為の休暇制度など
もっと社会保障の制度を整えることが優先だと思います。
今この業界は大きく変わろうとしています。
否定的に考えるのではなく、大きく進展するチャンスかもしれません。
ですが、1年ちょっとという短い期間の中で、進めるのは危険です。
保険適応化に関しては慎重に検討すべきだと思います。
このブログで綴っただけでは何も変わりませんが、どうしても伝えたかったので、ここに記載させて頂きました。
意見があればご連絡ください。
最後までお読み頂きありがとうございます。